第4章 茜の炎が芽吹く時
「そうなのか?」
「ええ……すみません」
何だ、間違いなのか?
「俺はてっきり共に行きたいと誘われたかと思ったのだが」
「はいっ?」
む、どうしてそんなに驚かれなければならない?俺は何か可笑しな事を言っているのか?
「あの……誰が煉獄さんを誘うんですか?」
「君が俺を」
沢渡少女の表情が更に歪んでしまう。手に持っているチラシと俺を交互に見ながら、彼女はこう発して来た。
「あの!」
「ん?」
「前にお話したかもしれませんが、怪談は苦手なんです……」
「確かに言っていたな。故に1人だと怖いから一緒に行きたい、そう言う事ではないのか?」
ここでますます彼女の表情が悩ましげな物になる。
何故だろう。そういう顔をされると、感情が波打って来るのだが。
「落語はまだ観た事がなくてな。良い機会だと思って楽しみにしていた所だったが…違うと言うのなら残念だ」
……残念、なのか。俺は。
自分で言った言葉を心の中で反芻する。先日も彼女と話していた時にこのような気持ちになったな。
これは一体何なのだろうか。
「お館様、再度おなりです」
涼やかでかわいらしい声が響いた直後。
鬼殺隊九十七代目当主、産屋敷耀哉様が俺達の前に姿を現した。
「杏寿郎、よく来たね。待っていたよ。それから七瀬、待たせてしまって悪かったね」
「とんでもありません!素晴らしいお庭をたくさん堪能出来て幸せでした!」