第21章 可愛い君、かわいいあなた ✳︎✳︎
「瑠火もこうなった事が……その、一度だけ、ある。もちろん病にかかる前だぞ!!」
「父上…」
表情筋が、自分の意志とは無関係に緩み始めるのを必死で堪える。
そうか……父もなのか。
「杏寿郎……言いたい事があるならはっきり言え。お前らしくもない」
自分にそう問いかけた父上は、目を閉じてあさっての方向を向いていた。その姿を見た俺は小さく笑みがこぼれてしまう。
そうだ、父はこう言う性質がある人だ。
「見た目や剣術は、七瀬からよく似ていると聞いてはいました。俺はそれを彼女が話してくれる度に誇らしかったのです」
「そうか」
「しかし、気質で同じ部分と言うのはあまり彼女から言って貰えず……少し残念に感じていました」
「それはそうだろう、俺とお前は大分違う。対極と言っても良い」
そう、今父が言った事は七瀬も以前口にしていた。
八岐大蛇任務の前 —— 彼女は俺達三人を太陽に見立て、話をしてくれたのだ。
俺は朝日、千寿郎は白日(はくじつ)、そして父は夕日だと。
しかし ———
「……確かに以前はそうだったかもしれません。しかし、父上の心が前を向いて以降は、彼女の口からよく聞くようになりましたよ」
「そう、なのか? 」
「はい! 今朝は掌の感触が似てると言われたり、父上に言われた事と同じ事を俺が彼女に問うたそうです」
一瞬だけ、父は虚をつかれたような表情をした。
しかし、次の瞬間には目元を和らげ「そうか」と噛み締めるように受け止めてくれた。
「んっ……」
「気がついたか? 」
「よし、では俺は冷たい茶を持って来よう。おい、手が止まってるぞ! しっかり仰いでやれ」
父に指摘され、団扇で七瀬に風を送っていた事を思い出した俺は再び彼女を仰ぎ始めた。