第21章 可愛い君、かわいいあなた ✳︎✳︎
七瀬の体は大きめの手拭いを二つ程かけているだけで、手や足はむき出しである。
「あの、その、俺は何も見ていませんから! 」
「ほら、行くぞ!」
弟は両目をギュッと瞑り、首を横に振りながら逃げるように脱衣所を出て行った。その後を追うように父が行き、開き戸が閉まる。
「……」
二人が慌ただしく出て行った後で、ハッと我に返る。七瀬の体を拭いて、服を……!
変わらずにぐったりとしている恋人の髪や体を急いで拭き、衣服を着用させるとスッと立ち上がる。
「父上! 千寿郎! お願いします! 」
★
「……」
「杏寿郎、入ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
スッと襖が開き、姿を見せたのは父だ。ここは七瀬の部屋。
脱衣所で彼女に衣服を着せた後、父と千寿郎が二人で恋人を運んでくれたのだ。
自分の右横に静かにあぐらをかき、父ははあ……とため息のような深い息をゆっくりとはく。
「お前と七瀬さんは恋仲だ。共に湯浴みするなとは言わんが……もう少し欲を抑えてやれ」
「はい、申し訳ありません。父上の言う通りです」
「いや、まあお前の、その気持ちは……わからんでも……」
ん?
父上が俺に共感して下さっている??
………! よもや!!
両腕を組み、思案する事は物の数秒。勢いよく右に首を向けるとそこにはやや顔を赤く染め、瞬きを繰り返す父がいた。
「七瀬さんに先日言われたぞ……」
「どんな事でしょう?」
次に父の口から飛び出したのは「俺とお前は似ているらしい」 —— そんな言葉だった。
外見が似ていると言われるのは父だけではなく、弟も同じだ。
もはや当たり前になっているので気にも留めない。七瀬もそこはよくよく理解している。故に今の発言は内面の事だろう。