第19章 スサノオ・アマテラス・ツクヨミと大蛇(おろち) ✴︎
「よう、蛟(みずち)早いお戻りだな」
鬼の夕葉は神社の瓦屋根に座って事の様子を見ていた。勿論自分の気配は探れないように術で隠している。
「申し訳ありません……」
すぐ近くに姿を現した、群青色の髪をした彼の部下は項垂れていた。不甲斐ないと言う思いを隠しきれずに、わなわなと大きな体を震わせている。
「ああ、気にすんな。想定内だ。あいつ、また腕を上げたな。炎柱のお陰か……?恋ってのは凄いもんだなあ」
自分の長い銀髪を指先でもてあそびながら、夕葉は感心した。
七瀬に見せた幻術は「心」を乱すと言う目的で、彼が施したものだ。心・技・体の内の心の部分。
他の隊士にも同じ目的で、それぞれ見せている。
「さて、その炎柱はどんなものか。ああ、でもあいつは精神力が強靭だからなあ……噛ませ犬にでもなれば上出来か」
腕組みをしながらククッと笑った鬼は、掌に乗っている丸い物体をゆっくりと口に入れた。
「所で蛟、お前の目って…」
口の中で転がしていたのは部下の片目だ。群青色のそれをプッと掌に吐き出し、蛟に向けて放り投げた。
「あまり美味くないな。綺麗なのは見た目だけか」
「くっ……はっ……申し訳、ありません!」
蛇鬼は掌で押さえている左目からダラダラと血を垂れ流し、大きな体躯を折り曲げた。
「目だけで済んで良かったな。まあ…再生するんだからこれぐらい構わないよな?」
くつくつと夕葉は肩を震わせながら笑い、炎柱と彼に対峙させている蛇に視線を向ける。
★
二つ目の鳥居をくぐった時に、夕葉の幻術が全員にかかっていた。
杏寿郎もまた鳥居をくぐる際、気色の悪い感覚を全身に感じたが、すぐ近くにいる七瀬の姿を確認しながら足を進めたのだ。