第19章 スサノオ・アマテラス・ツクヨミと大蛇(おろち) ✴︎
時刻は二十時。ここは赤坂の氷川神社だ。
一見見た限りではごく普通の神社。何の変わりもない。しかし、鬼が出ると言う事は、何かが必ずある。
杏寿郎達は大きな灰色の鳥居の前に、六人が一列になって横並びになっていた。
「嫌な気配をビシビシ感じるぜ。確実にいやがる」
「ね、ねぇ、今から引き返したらダメ??」
「善逸!ここまで来て何を言っているんだ…」
「ムーン、ムーン」
伊之助、善逸、炭治郎がそれぞれの思いを吐露する中、禰󠄀豆子は炭治郎の横にちょこんと立ち、可愛らしく声を発している。
「猪頭少年!どの方角かわかるか?」
「おぅ、ちょっと探ってやるよ」
杏寿郎に問われた伊之助は皆(みな)が並んだ列から、前方に少し歩く。それからザク、ザク、と彼は背中の二本の刀を地面に突き立て、片膝をついたのちに両手を大きく開いた。
「獣の呼吸・漆ノ型」
「空間色覚———」
伊之助は集中した。
炭治郎は嗅覚、善逸は聴覚。そして今呼吸を使用している伊之助は触覚が鋭い。
この技はその触覚を大いに活かして、空気の細かな揺れを感じる事が出来る。
「……………」
禰󠄀豆子を除く五人の隊士は固唾を飲んで様子を見守っていた。五分程経った所で、伊之助がすくっと立ち上がる。
日輪刀を元通り背中に戻した彼に、杏寿郎が話しかけた。
「どうだ?何かわかったか?」
「ああ…この神社何かモヤみたいなもんが全体にかかっててよ。三つに分かれてるな。で、それぞれが気持ちわりいぐらいのおぞましさだぜ」
「血鬼術……でしょうか」
自分以外の者を見回しながら、口を開いたのは七瀬だ。
「ああ、そうだろうな」
杏寿郎の言葉を聞いた彼女は、腰の左側にさしてある日輪刀の柄をきゅっと握る。
「神社の真ん中あたりから、その気持ち悪さを感じるぜ。ここは大丈夫だけどな」
「真ん中、と言うと……」
続けて七瀬は、隊服の胸にある衣嚢(いのう=ポケット)に入れておいた地図を取り出す。