第19章 スサノオ・アマテラス・ツクヨミと大蛇(おろち) ✴︎
優しい表情で七瀬を見ている杏寿郎がそこにいた。
彼女は額にかかる前髪を左手で少しかき分け、右手の人差し指でトントン、とそこを指し示す。
「杏寿郎さん、験担ぎお願いします」
瞬間、唇に狐を描いた杏寿郎は恋人へと少しずつ近づく。
『心臓…落ち着いて』
右の掌をその胸の中央に当て、鼓動の高鳴りを抑えようとする七瀬。そんな彼女の頬を大きな両手がふわりと包んだ。
「では望みとあらば…」
その声色は、恋人である七瀬だけに響く物。
コツン…と二人の額が柔らかく重なると、互いの体温がじんわりと伝わっていく。
『体温だけじゃなくて、杏寿郎さんの強さも分けて貰えれば良いのにな』
七瀬は目を瞑り、彼がくれる温もりを堪能している。するとスッとおでこが離れた。
物足りなさを感じた彼女がゆっくり目を開けると、そこにはとびきり優しく、愛おしい目で七瀬を見つめる杏寿郎の表情がある。
「実はな」
「どうしました?」
「俺にとっても、君とのこれは験担ぎだ」
「……光栄です!」
七瀬の頭にポン、と掌が乗ったかと思うと、優しく撫でる杏寿郎。彼女はこの行為にも活力を貰い、益々嬉しくなった。
「少年達が待っている。行こう」
「はい」
掌を離し、七瀬を促した杏寿郎は既に炎柱の顔になっている。二人は煉獄家の門扉をくぐり、赤坂氷川神社に向かった。
そこで杏寿郎一行を待ち受ける物とは ——