第3章 花浜匙(はなはまさじ)の繋がり
「そうそう、巧の遺書にも剣士をやめるなと書いてありましたよ。どうしても伝えたかったみたいです」
「君の事を恋人としてだけではなく、剣士としてもきちんと見ていたのだな」
「そうですね」
自分は色恋事に疎い方だ。
今まで異性から好意を伝えられた事は数回あったが、いずれも相手から告げられて初めてその思いを知る —— そんな人生だ。
故に正直、恋人を剣士としても見れるのか。その辺りの事は不鮮明である。
「巧を看取って下さったのが煉獄さんで良かったです。こうして毎月お花を備えるのが自分だけじゃないんだな、と思うと……とてもありがたいですよ」
「そうか。それなら良かった」
「はい」
仲間を見送るのはいつだって辛く悲しい物だ。桐谷くんの場合も例にもれず。しかし彼が親しかった人物からそう言われた事は嬉しかった。
「お墓参りが終わったら、お出ししようと思っていたお手紙です。せっかくお会い出来たのでお渡ししますね」
どうぞ —— 彼女はスッと文を差し出して来る。
「ではありがたく頂こう。君からの手紙は読みがいがあるからな!カステラの話はなかなか笑えたぞ」
沢渡少女はカステラが大の好物らしい。同居している後輩隊士と取り合いになり、どうやら取っ組み合いの喧嘩にまで発展したのだとか。
「だって……食べ物の恨みは恐ろしいんですよ?」
じとっと恨めしそうに自分を見る彼女。
愛いな!!
…ん?愛い?どういう事だ?
それは弟・千寿郎に対して感じる思いとはやや形が違うような気がした。
「さて、沢渡少女。すまないが俺はもう行かねばならない。君はどうする?」
心の中で不透明になっている ”愛い”
この正体を深く探ろうとした矢先に所用を思い出し、俺は彼女にそう告げた。すると自分も買い物があるので帰宅すると言う事だった。
羽織を返してもらい、肩にかける。
沢渡少女はその間に掃除用に持ってきた桶などを元あった場所に戻してくれた。なかなか気が利くらしい。