第3章 花浜匙(はなはまさじ)の繋がり
桐谷くんは自分と同じで下に弟君がいた。そして生前よく話をしていた為、その流れだ。
するとふとした瞬間に視線を感じた。どうやら沢渡少女が自分を見ているようだ。
彼への報告が終わり、目を開けて立ち上がると彼女に顔を向けた。
「お花、毎回ありがとうございます。もしかしたら?と最近思い始めていた所でした」
「看取った立場としては、来ないといけないなと思ってな」
「お手紙で教えてくださっても良かったのに」
そう、俺は沢渡少女と手紙のやりとりをしている。きっかけは蝶屋敷から彼女が自宅に戻った際、言伝のお礼を……と言った目的で文をくれた事が始まりだ。
お礼だけではなく、彼女の弟弟子と一緒になり、冨岡とにらめっこをした話が記してあった。
どうやら全く笑ってくれなかったらしい。
そう言えば自分も似たような事をお館様の命で取り組んだな、と思い出しそれを返事の文に記した。
忙しい柱の任務だが、彼女との手紙でのやりとりはとても楽しく、千寿郎の事、さつまいもが大好物だと言う事を沢渡少女へ伝えていった。
「スターチスの花言葉、調べました。ありがとうございます」
「良かっただろうか。この花で」
「ええ、ぴったりですよ」
スターチスの花言葉の一つは“途絶えぬ記憶” だ。
桐谷くんは歳も近く任務でもよく一緒になった為、いわば旧知の中。思い出すのは彼の笑顔ばかりだ。
よく笑う男だった。
「彼とは一年しか一緒にいれなかったので……思い出は多いか少ないかと聞かれれば、そんなに多くはないんです」
そう、なのか……俺より付き合いが短かったのだな。
「だけど。どれもが私にとってはかけがえのないものですし、忘れる事はできません」
墓前に向けていた顔が自分の方に向く。意志が強い焦茶色の双眸がそこにはあった。