第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
「…七瀬」
「ん…………」
彼女の顔に自分の顔を近づけ、それから柔らかい口付けを唇に落とす。数回角度を変えて繰り返し、最後にちうと吸い上げた後は七瀬をぎゅうと抱きしめ直した。
「本当にありがとう。正直、少し救われたかもしれん。父にくだらんと言われた時の気持ちに、ようやく区切りをつける事が出来た気がする」
「そうですか? なら良かったのですけど」
「ああ。七瀬が益々愛おしくなった。故にもっと君とのやりとりを楽しみたいが、今日はここまでにしておく」
「…お気遣いありがとうございます」
「そのかわり…」
“任務が終わったあとはわかっているな? “
鼻と鼻がふれあいそうな至近距離で、焦茶色の双眸をじいっと見つめると彼女の瞳孔がぐっと開いた。
桃色にほんのりと色づいた唇をそっとなぞり、顎をすくう。
そしてまた一粒だけの口付けをゆっくりと落とした。名残り惜しいが明日は任務だ。我慢せねばな!
「……はい」
「さあ、もう寝るぞ」
彼女の左頬を撫でた後、行燈の明かりを消し、瞼を閉じた。
暗闇でもじっとこちらを見る視線に「どうした?」と問い掛ければ、俺に触れると安心出来ると言う七瀬だ。
「そうか…」
呼吸が深くなり、そこから先の記憶はない。こうして驚きばかりの一夜は終わった。
そして夜が明け、朝がやって来た。今日は金曜日だ。
雀の鳴く音が聞こえる中、彼女が起きた。
じっとこちらを見つめる視線は瞳を閉じていても充分わかる。
いつぞやと同じように七瀬の様子を伺っているが、何もしてこない。ふむ、であればこうしよう。
絡められた手をそっと離し、両腕を彼女の背中に回す。
「寝てるフリをするなら、もう少し早く決めないとこうなるぞ」
「おはようございます」
自分の背中にゆっくりと回されるのは、恋人の華奢な両腕だ。
「おはよう」
挨拶を返すと小さな頭が上を向き、焦茶色の双眸が俺を見据える。