第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
「杏寿郎さんのおかげで夢も見ませんでした。よく眠れましたよ。スッキリです」
「それは良かった」
彼女の額に口付けを一つ贈ると、自分の胸がほんのりとあたたかくなった。昨夜俺に触れると安心すると言っていた七瀬の気持ちが少し理解出来た気がする。
「稽古をするぞ」
「はい……!」
笑顔と共に額へお返しの口付けが届いた後は、共に布団から出て着替えの為に彼女は自室へと戻る。
朝の稽古の前に父へ謝罪をしに行くか。
七瀬と揃いの紺の道着に着替えた後、彼女と共に父上の私室へ向かう。
この道を歩くのは炎柱就任以来だ。あれは確か二年前だったか。
その長いようで短かった距離は七瀬の「着きましたね」の一言で終着した。
「おはようございます! 父上、杏寿郎です、今朝はお話したい事がありまして!! 七瀬と出向き……」
「お前の声のデカさは相変わらずだな……」
襖の前に七瀬と二人で正座して、部屋の中にいる父に話しかける。すると言葉を最後まで言い切る前に目の前の襖がスッと開き、父上が出て来た。
朝の光を受け、きらきらと輝く自分と同じ金色の髪。二つに毛先が分かれた眉毛は垂れ下がっており、双眸には柔らかな感情が浮かんでいる。
そこには幼少時に憧れの念を抱いた父より、少しだけ歳を重ねた人がいた。
「おはよう、杏寿郎に七瀬さん。話とは何……」
「父上! 昨日は我が継子が無礼を働きまして、誠に申し訳ありませんでした!!!! 」
「わかった! わかったから、音量をもう少し落とせ…。うるさくてかなわん」
目の前の父は両手で耳を塞ぎ、苦痛を訴えながらも自分を真っ直ぐ見つめている。それに感激した俺はまたも大きな声で叫んでしまい、父から雷を落とされてしまった。
「父上! 俺はとても嬉しいです!! 一緒に朝食を食べに行きましょう」
「おい! お前、人の話を聞かん所も変わらんな……」
「おはようございます、槇寿郎…さん」
右を向けば、七瀬が俺達のやりとりを嬉しそうに見ていた。
こうして煉獄家の新しい朝はこの瞬間より始まったのである。