第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
どんなに炎の呼吸を極めても、たどり着けない頂き。どんなに努力を重ねても、こじ開けられない領海。
惨めだった。
悲しかった。
悔しかった。
『ご無事のお戻り、何よりでした』
任務から帰ってきた際、いつもそう声をかけてくれた瑠火。
病にかかり、なかなか起き上がる事が難しくなっても、可能な限り出迎えてくれた妻。
そんな「当たり前」さえも、自分の前から忽然と無くなる。
ずっとこの先も一緒に過ごしたかった大事な存在が先に旅立ってしまい、希望の光が消えてしまった。
………何もかもが嫌になった。炎柱の責務も。そして、息子達への指導も。
それからの俺は坂道を転がり落ちるように堕落し、任務にも酒を持ち込むようになった。
しかし、それすらも億劫になり、鬼殺に出向く事も段々少なくなった。俺が完全に任務に行かなくなったのとほぼ同時に息子の杏寿郎が十二鬼月を倒し、炎柱になった。
これで自分の柱としての役目は終わりを告げる。
杏寿郎がその就任報告をしに自分の部屋にやって来た時も「くだらん」と一蹴した。息子が一瞬だけ息を呑むのが気配でわかったが、どうでも良かった。
しばらく酒と共に過ごす日々が続いた。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎる。
そうして何回か四季を見送っていた所に1人の少女が食事を持って、俺の部屋の前にやってくるようになった。
それが今、目の前で必死に自分を見据えてる沢渡七瀬。
杏寿郎の継子と言う女である。
「では聞く。何故、派生がダメではないと言えるんだ?所詮は日の呼吸の猿真似だぞ。模倣は模倣。純度が高い源流にそれらが勝つ事は天地がひっくり返ってもありはしない」
変わらず自分を見据える彼女にずいっと顔を近づける。
怯む様子は依然としてない………胸の中のざわめきが更に増していった。