第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
この時々朝食に出される汁物は一体どう言う物なのだろう。
手で延ばしちぎった団子、人参、ごぼう、大根、干ししいたけ、そしてさつまいも。これらが味噌で溶かした汁の中に、ごろごろと鎮座している。
一口啜る。
美味い。
息子達も……いや、これも自分には関係のない事だ。
いつも通り全て食した後は盆を襖の外に置いておく。するといつのまにやら誰かが片付けている。そんな毎朝だ。
しかし —— 三日後の木曜日に大きな変化が起きる。
「お願いします!どうしても必要なんです!」
火曜日、水曜日、そして今朝。
女は三日間共同じように襖の前で頼み込んでいる。きっとまた額を床につけて頭を下げているのだろう。
「お願いします!!」
何をそんなに必死になっている?
何をそんなに焦っているんだ??
五分間程、襖のこちら側とあちら側で沈黙が続いた。昨日までの女の態度と今日の女の態度が一変している。
きっと自分がこの部屋から出ねば、ずっとこの状態でいるつもりなのだろう。
勝手にすればいいと思うが、 こんな時でも腹は減っている。一度襖を開けないと食事が出来ない。
「はあ………」
一体何年振りだろうか。人の待つ襖の先へと足を進めるのは。
深いため息と共に、俺は白い戸をスッとあけた。すると、女の焦茶色の頭がそろそろと上がる。
「槇寿郎さま。改めましておはようございます。沢渡です。お酒の件、お願い出来ませんか」
耳が隠れる程の短めの髪型。色は双眸と同じ焦茶色だ。
十代後半であろう小娘は、下から強い眼差しで自分を見つめている。柔らかい顔立ちだが、纏う空気は一介の剣士その物であった。
「………」
「………」
互いにどちらから言葉を発するか様子を見ていたのだが、口火を切ったのは俺だ。
「君は杏寿郎の継子と言う事だったな」
「はい……」