第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
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「おはようございます、槇寿郎様。沢渡です、朝食お持ちしました」
……まともに応対した事は一度もないと言うのに。
毎日飽きもせず、よく来れる物だ。女の名前は先程名乗った通り、沢渡。息子の継子になったと言う隊士だ。
確か昨年の梅雨期間中に、我が家にやって来たと記憶している。
この女のように杏寿郎の継子になりたいと言う者は、一定数存在する。しかし、大概は三日続けばマシで志願者のほとんどが息子の前から去っている。
「今日は月曜日です。今週も始まりましたね。あの、申し訳ありません……ご相談があるんですけど宜しいですか?」
……?
相談とは俺に対して、と言う事か。
見えない場所から降って沸いたような言葉が目の前に現れ、少し困惑する。そんなこちらの様子にも構わず、女は続けて話し出した。
赤坂の氷川神社に日本神話の八岐大蛇を彷彿とさせる、鬼が出没している。討伐にあたって自分なりに考えた結果、酒が必要なのではないか。そんな結論に行き着いた。
何故なら —— 神話の中で大蛇を倒した須佐之男命が使用したからだと言う。
だから俺が持っている酒で、一番度数が強い物を頂けないか。
「……と言う事で必要なんです。だからお願いです!!」
彼女の姿は襖の先にあるので、全く見えない。しかしこの様子だと大方土下座に近い勢いで頭を下げているのだろう。
くだらん。
誰が譲る物か。襲われる対象になっている若年の女達も、神社の神主達も俺には全く関係のない事だ。
五分弱その状態が続いたが、やがて彼女は諦めたらしく、足音が少しずつ部屋の前から遠ざかっていく。
その頃合いで襖を開け、廊下に置かれている朝食を素早く私室に引き入れた。
一瞬足音が止まったが、気にせずいつものように食事をしていく。