第16章 晴れた霞に心炎嫉妬をする、の巻。
「安心しろ、恋の勝負だ」
「こい? 」
コイ?鯉?故意?
七瀬の額と左右の頬に、その三つの言葉が浮かんでいるようだ。どうやら全く予想がつかないらしい。
「時間は無制限。どちらかが苦しくなったら終い、と言う事にでもしよう」
「………?」
ふむ、ここまで言ってもピンと来ない物か。ではこのまま決行しよう。
「行くぞ……始め」
「ん、」
己(おの)が唇を七瀬の唇に、まずはそっと当てる。優しく啄む感触を楽しんだ後は、するりと唇の隙間から舌を侵入だ。
「んう、きょうじゅ…さ…はぁ」
「七瀬…」
舌で愛撫を続けていると、互いの口の隙間からつつ…と透明な液が溢れて来た。時折それを舐めとってやると、艶めかしく恋人が息をこぼす。
勝負と言う言葉を使ったが、俺が七瀬に口付けたかっただけか。
右手は恋人の頬を撫で、左手は恋人の腰の側面を撫であげる。すると俺の首に回るのは、華奢な両腕だ。
体の距離が近づき、このまま心の距離も ——
しかし、そんな空気は襖の外から聞こえた声に中断されてしまう。
「七瀬ちゃん?いる??」
「んっ!! えっ……」
呼ばれた本人は大層驚いたようで、慌てて俺の唇から離れてしまう。むう、残念だ…いや丁度良かったのか。
「すみません。ちょっと…応対して来て良いですか?」
「……ああ」
「流石、落ち着いていますね」
「まあな」
正しくは落ち着いているように見せている、だ。
ポンと彼女の頭に手を乗せ笑った俺は、そのまま事のなりゆきを見守る。襖をゆっくりと開け、七瀬は部屋の外に出た。どうやら宇髄の奥方のようだ。まきを殿らしい。
「どうされたんですか?」
「いいね〜!すっごいかわいい顔してるよ」
「……はあ…」
これは当然だな!
今の今まで俺の前でかわいい姿を見せていたのだから。しかし、奥方にすぐ把握されてしまうと言うのもなかなかに気恥ずかしい物だ。