第16章 晴れた霞に心炎嫉妬をする、の巻。
「ここにいたのね。まきをと一緒に探してたのよ」
「雛鶴さんまで!どうされたんですか?」
「七瀬ちゃん、カステラが好きでしょ?とびきり美味しいお店のものがあるから、呼びに来たの」
む、これは戻らねばならないではないか。カステラを食す七瀬はとびきり愛いからな…。
「はい、じゃあ戻ります。あのそれで…」
「うん、わかってるから。2人で戻っておいで」
「……はい」
「じゃあ、先に行ってるよ」
「………」
奥方二人を見送った七瀬は襖を静かに閉め、少し困った表情をして振り返った。
「おニ人、相変わらず鋭いです……」
「そうだな! しかし君がわかりやすいと言うのもあるぞ」
「はあ…そうでしょうか」
首を傾げる七瀬だ。君の気持ちはよくわかるぞ!俺も宇髄には頭が上がらないからな。
「奥方達が、せっかく用意してくれたんだ。戻ろう。気になるのだろう?カステラが」
「それは……もちろん。とびきりと言われると……」
恋人の口元に柔らかな笑みが宿る。すると先程時透に対して感じた気持ちと同様の物が胸中に広がり始めた。
「七瀬…俺はその内、カステラに嫉妬するやもしれん」
「あはは!何ですか、それ……」
仕方ないだろう。カステラは君をあっという間に笑顔にさせるのだから。そんな幼子のような事を考えてしまう自分に、苦笑いをしてしまう。
「すみません。私、さつまいもに嫉妬した事がありました…杏寿郎さんに、あんなに美味しそうに食べてもらって良いなあって」
「ははは!そうか…」
彼女の頭をひとなでした後、愛らしい事を言う七瀬の唇をするりと一度奪い、俺達は客間へ戻った。
そして七瀬が食べている途中だった甘露煮と、奥方達が用意してくれた甘いカステラを分け合って食した。
「嫉妬してくれる杏寿郎さんも素敵でしたよ」
「む……そうか」
「はい。凄くドキドキしてしまいました」
カステラを食べた後、こっそりと耳元でそんな事を言う君。俺がまた七瀬の事を好きになった瞬間だ。