第16章 晴れた霞に心炎嫉妬をする、の巻。
はい、と頷いた彼女は更に俺を抱きしめてくれる。
「好意がある場合、どこかに行こうとか……そう言う事を言ってくるんじゃないかと。杏寿郎さんは以前、私に落語に誘われたと思ったでしょう?」
「なるほど!確かにそうだな。あの時は気づかなかったが、俺は君と出かけたかったのだな」
「落語は怖かったけど、杏寿郎さんと初めて出かけれて凄く嬉しかったなあ」
俺もだ。君と共に同じ物を見る事ができて、とても嬉しかった。あの日を思い出しながら七瀬の頭を撫でていると ——
「もし万が一、杏寿郎さんが言うような事があったとしてもですよ」
「ああ」
一つ大きく息をはく君は、一体何と言ってくれるのだろう。
「私が好きな人はあなたです。あなた以外の人とお付き合いする気はありません」
「そうか! ありがとう…」
七瀬以外と付き合う。自分にも考えられない事だ。
「俺は果報者だな」
「ん………」
密着している彼女の顎を掬い、そっと七瀬の唇に一粒の雨を降らすと、はにかんだ笑顔を咲かす君。
ようやく俺も心が晴れたようで、胸を占めていた暗雲が消え去った。
「して七瀬」
「はい……」
「どうするんだ?手合わせは」
師範としては是非見てみたい。柱の中でも周囲から”天才”と評される時透だ。しかし、ここは七瀬の気持ちも大事にしたい。
「お断りしますよ。天才剣士に勝負を挑む程、命知らずではないので。それにこれ以上柱の方と勝負するのは本当に気力が削がれます」
「ははは! そうか」
残念だ! 継子がここまで言うのであれば無理強いはやはり出来ん!
「あ、でも蜜璃さんとは試合とまではいかなくても、やってみたいなあって思います。しのぶさんとはまた全然違うでしょうから」
「ほう、それは面白そうだな。すぐに提案してみるとしよう! その前に…七瀬。俺が再度君に勝負を申し込む!」
「えええ、勘弁して下さい……」
何て事を言うのだ。
そんな思いをめいいっぱい込めて見上げてくる七瀬が愛い!