第16章 晴れた霞に心炎嫉妬をする、の巻。
ん?と首を傾げた七瀬だが、腹が減っているのだろう。「さつまいも、食べちゃいますね」と言いながら、半分の量になった甘露煮を口に含む。
「ん…美味しい!! ねえ、杏寿郎さん。甘露煮って蜜璃さんが継子をされてた時に、よく一緒に食べたんですよね?」
「ああ、そうだな」
自分でも驚くぐらいだった。
全く抑揚がない声色が自分の口から出た為だ。この俺の態度で、彼女の顔色が一気に変化する。
甘露煮を食べていた箸がピタッと止まり、やがてそれは皿に力無く置かれる。互いの間に沈黙が重苦しく落ち始めたその時 ——
「七瀬、さっきの話考えておいてよ」
七瀬、だと?
振り返ると時透が自分達の後ろを通りながら、襖に手をかけている。
「無一郎くん、だからそれは無理……」
「楽しみにしてるね」
彼はスッと襖を開け、そのまま廊下に出て行った。
無一郎、と言うのは確か時透の下の名前か。
それを認識した瞬間、先程からもやついていた感情が一気に胸の中に駆け上がって来た。
七瀬がはあ……と1つため息を落とす。
このため息の意図は何だ?! 煮えたぎる感情を最大限に落ち着かせ、彼女の右手をギュッと握った。
いつもより少しだけ強く。
「随分仲が良いのだな」
「えっ……?」
彼女が首を傾げている。その時間がほんの数秒続いた後に「あっ」と小さな声を漏らした七瀬は俺に体を向ける。
「杏寿郎さん、ちょっとお散歩に行きませんか?」
「散歩か?」
「はい」
促された俺は立ち上がると、襖を静かに開けた七瀬と共に廊下へと出た。彼女が先導する形で俺の前を歩いている。しばらく歩いたが、時透と会う事はなかった。
ふと、ある部屋の前で止まった七瀬は外から声をかけた。中にはどうやら誰もいないようで、シンとしている。