第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
「七瀬さん、私は半分も力を使ってませんよ。あなたもそんなものじゃないでしょう?」
蟲柱はひざまづいている七瀬に向かい、いつもと同じように綺麗な笑顔を見せている。
『これで半分も出してないんだ……』
彼女はしのぶの実力をまざまざと見せつけられ、驚きと戸惑いでいっぱいだった。
「……早速、胡蝶に翻弄させられているな。予想は出来ていたが」
杏寿郎の右隣に座り、同僚と妹弟子の勝負を見つめていた義勇は、静かな声で呟いた。
「ニ日前だったか…君の所に行ったようだな?」
「ああ、突き技の確認と強化について少しな」
共に腕組みをしながら、話す炎柱と水柱。義勇は端正な顔からふうと一つ長い息をはきながら、杏寿郎と会話を続けていく。
「あいつが力を発揮し出すのは大体二本目からだ。先制されないと気持ちが入りにくい。煉獄、お前の継子になってもそこは変わらない」
「そうだな、君の言う通りだ」
杏寿郎はそんな理由があり、自分との特別稽古時にあえて七瀬に向かって来いと告げたのだ。
炭治郎との合同任務の際、七瀬が先制攻撃をしたと聞いた彼だったが、詳しく話を聞くと後ろから追いかけていた為、鬼を斬れたとの事であった。
『向き合う勝負だと腰が引けてしまうのがな。俺に気持ちを伝えて来た時は特別だったと言う事か……』
杏寿郎は七瀬を見つめながら、そんな事を思っていた。
「煉獄……」
「ん?どうした冨岡?」
「いつも俺に負けてばかりだったが、先日の詰め将棋は勝ったぞ」
「ほう、それはまた……」
杏寿郎は義勇から思いがけない話を聞いて、感心していた。
『恐らく二本目は七瀬が取る。三本目に入る前に、だな』
何かを決意する杏寿郎に左隣から声がかかった。
彼を呼んだのは小芭内である。