第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
「でもありがとうございます。少し気持ちが軽くなったかもしれません」
「勝負は時の運とも言う。今の君のように肩の力を抜くのも大事だな!後はあまり気負いすぎない事。これが一番自分の力を発揮しやすいのではないか?」
「はい……」
激励されて嬉しくなった七瀬は、杏寿郎の体にぎゅうっと抱きついた。が、すぐにパッと離れる。
「なんだ、もう離れてしまうのか」
「すみません、まだ柔軟の途中でした」
稽古が終わっていないのに、公私混同を反省した彼女は謝罪をした。
「ん?もう柔軟は終わっているだろう?」
杏寿郎が七瀬にグッと顔を近づけると、彼女は瞬時に顔を赤く染めた。
「稽古は終わりだ。七瀬」
「ん……」
師範から恋人へ。
表情を変えた杏寿郎からの口付けを受ける七瀬は、心臓を心地よく跳ねさせる。
「頑張れ、君なら大丈夫だ」
「はい!ありがとうございます、杏寿郎さん」
★
「蟲の呼吸・蝶ノ舞」
「 —— 戯れ」
「……ん!!」
ふわっと蝶のように空中へ舞ったしのぶは、身軽な動きで七瀬を混乱させた。
後ろへの宙返りを経て顔を前方に向けた次の瞬間。
七瀬の目には追えない速さで、見事な突きを彼女の右肩に入れる。それも複数回、である。
『……いたっ!!』
じんじんと熱を持ったように、突かれた箇所が痛む七瀬は苦痛で顔を歪めた。
「胡蝶、一本!なんだよ、あっけねぇ。おい、沢渡!もう少し根性見せろ!」
天元はちっと舌打ちしたのち、ため息をつきながらつまらなさそうに言う。
自分の予想を超える速い動きに驚いた七瀬は、ガクッと右膝をついた。まだ一本目だと言うのに、彼女の体はだいぶ熱を発しているようだ。