第2章 炎柱・煉獄杏寿郎の息吹
「兄上?」
千寿郎が大きな目を見開いて、不思議そうな眼差しを向けている。
考えても —— 考えても仕方ない事は考えるな。
弟は、千寿郎はもっと…かわいそうじゃないか。物心がつく前に母は亡くなったからほとんど記憶はない。
父はあの状態だ。
俺は口角をあげ、千寿郎の顔を覗きこむ。目線を合わすように弟の腕に己の手を添えてしゃがんだ。
そして言い聞かせるように言葉を発していく。
「正直に言う、父上は喜んでくれなかった。少しもな」
「え……」
弟の顔が曇った。けれども伝えなくてはならない。
「しかしな、千寿郎。そんな事で俺の情熱は無くならないし、心の炎も消えはしない。俺はくじけない。けっして」
「兄、上……」
「千寿郎は俺とは違う。お前には兄がいる!…どんな道を選ぼうとも、どんな道を歩もうとも、立派で逞しい人間になる!俺はそう信じている」
「う……」
弟の双眸から涙がじわっとあふれて来た。そして自分に体を寄せて来た千寿郎を強く抱きしめる。
「やっぱり変わらない……ずっとこのままなのかな」
脳内に思い浮かぶのは、日輪刀の色が変わらない事を嘆く弟の姿だ。何度も何度も剣を振るった。しかし、千寿郎の刀が色づく事はまだ一度もない。
恐らく………いや、何を考えているんだ。
一瞬思い浮かんだ推測を半ば無理やりに打ち消す。そして弟にこう声をかけた。
「千は俺よりも心が強い!!故に怯む事はないぞ。心炎を絶やさず、己を信じ、共に歩んでいこう……寂しくとも」
こくんと頷く弟を更に抱き込むと、肩が震え、しゃくりあげて泣き始めた。ぽんぽん、とまだ小さな背中を柔らかく叩く。