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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第2章 炎柱・煉獄杏寿郎の息吹



幼き日の父との思い出が”刹那”と呼ばれる間に蘇える。
短い髪、快活な笑顔、自分の頭を撫でてくれる大きな掌。それから広くて逞しい背中。あの頃の父上は俺と弟の憧れだった。



「杏寿郎は太刀筋が綺麗だな!これなら呼吸もきっと美しく放てるぞ」

「ありがとうございます!父上!」

「よし、もう一度素振りを見せてくれ。ほら千寿郎もだ」

「はい!」

ポン、ポンと自分の頭と弟の頭を優しく撫でてくれた掌。上手く出来た時にこうしてくれるのが大好きだった。
そんな俺達三人を縁側から静かに見守る母。優しい笑顔が大好きだった。



俺が生まれた煉獄家は代々炎の呼吸を受け継ぎ、そして炎柱を務める事が多い家系だ。父も祖父も曽祖父も。ここ近年男子として生を受けた者は皆(みな)炎柱の雅号(がごう)を名乗っている。


父上は祖父の背中や佇まいを —— 熱く優しい炎柱の姿を見て、自分も柱に。
そう決意したようだ。
俺もまた父の大きな背中や姿勢を幼少時から見て来た事により、今までの系譜を受け継ぎたいと心から思った。


だから父からの熱心な指導を受けながら、脇目もふらずに努力をした。来る日も……来る日も。

しかし。
突然ブツっと草鞋の紐がちぎれてしまうように、父の情熱はその温度を急速に下げた。


「おはようございます、父上!今日も稽古をお願いします」

「知らん、勝手にしろ」

「え、父……」

うえ、と呼びかけた声は襖を冷たく閉じられた音によりかき消された。いつも通り道着に着替え、自室にいる父を呼びに行ったのだが…。襖にもう一度手をかけようと伸ばした手を、俺は力無くおろした。


母が亡くなったあの日から父は変わった。
俺と千寿郎の目を見てくれなくなった。まともに口も聞いてくれなくなった。

広く逞しく、凛とした背中が目の前から忽然と消えた。自分を力強く導いてくれていた希望の光が、宵闇に溶け込むように塗りつぶされたのだ。

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