第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
——— 五日前、煉獄邸での出来事である。
「胡蝶か……確かに速いな!正直俺でも捉えれるかどうかわからん」
「え?杏寿郎さんでもですか?」
「ああ」
七瀬と杏寿郎は道場で柔軟をしていた。これは締めの稽古として取り組んでいる腕相撲が終わった後にやっている日課だ。
するのとしないのでは翌日の疲れが全然違う事を実感した七瀬は毎回やりましょう、と提案をしたのだ。彼女は膝の屈伸を、杏寿郎は上半身を伸ばしている。
先程から二人が話しているのは、蟲柱の戦い方についてである。
背筋が凍るような事を言われた七瀬は、しのぶの提案を了承した事を、今更ながらに後悔し始めた。
事の発端は特別稽古後に訪れた蝶屋敷にて、診察をしてもらった七瀬が蟲柱から「私とも手合わせをしましょうよ」と誘われたのがきっかけだ。
「はあ」
「まだ始まってもいないのに、なんだ。そのため息は」
「いえ、だって……」
大きな大きなため息をつく継子をたしなめる師範である。そして彼は続けてこう言った。
「胡蝶は間違いなく速い。そして戦い方も独特!だが筋力は強くない。これは本人もよくわかっているようだ。一矢報いるとしたらそこだろうな」
「筋力……?」
「そうだ。七瀬も炎の呼吸を取得する前、筋力が強いとは言えなかっただろう?それが今はどうだ?」
以前より確実についた、間違いない。そう確信した七瀬は強張っていた己の体から、少しだけ力が抜けた気がした。
「胡蝶は以前の君と少し似ているのではないか?とは言え、速さと技術は断然柱の彼女が上だがな!!」
「杏寿郎さん、励ます気あります?」
「はは!すまんすまん!」
睨む七瀬だが、それをカラッと笑ってかわす杏寿郎である。
豪快に笑う彼を見た彼女の体から、気も抜け始めた。