第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
首を右に傾げた無一郎の視線の先には向かって右にしのぶ、中央に天元、そして左に七瀬がいる。
今日はしのぶと七瀬の試合が、音柱邸の道場で決行される所だ。霞柱は他人や、他人がやる事には基本的に興味を示さない。
『あの子が煉獄さんの継子かあ、何人も隊士が逃げ出して来た中で脱落しないでいるんだっけ』
しかし、七瀬に対しては珍しく興味を示している。
『どんな戦い方をするんだろう』
無一郎が自分の事を気にかけている。そんな事は当然知らない七瀬だ。
「七瀬さん、早く始めましょうか」
「はい……」
紺の道着姿の七瀬と白の道着姿のしのぶ。先程の天元の発言を受け、互いに苦笑いしながら向かい合う。
『緊張して来た。しのぶさん、余裕だな』
『大分硬いですね。先手必勝が得策でしょうか』
「くそっ、胸くそわりいな…」
二人の思いが交錯する中、悪態をつくのは天元である。
それでも彼は1つ静かな深呼吸をすると、すぐに気持ちを落ち着けた。切り替えの良さはさすが柱と言った所か。
「今日は三番勝負、二本先制した方が勝ちだ。時間はそうだな……
一本につき最大十分。合間の休憩は五分でどうだ?」
彼は顎に手をあてながら、目の前に立っているしのぶと七瀬に問いかける。
「構いませんよ」
「はい、私も大丈夫です……」
互いに了承した女子二人は一礼をし、前方に木刀を構える。
シーン……と静かな間(ま)が通り抜けると、天元の凛とした声が道場内に響き渡った。
「よしっ!じゃあ………始め!!」
こうして蟲柱と炎の継子による、試合が始まった。