第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
「おい、胡蝶。本気出して行けよ。手加減なんかすんじゃねーぞ」
「はいはい、わかってますよ。宇髄さん」
ここは音柱である天元の屋敷。皆(みな)が集まっているのは、道場である。
「よーし、お前ら準備は良いか?審判は祭りの神であり、戦の神の俺様だ」
左目に花火が咲いたような化粧をし、着流し姿で髪を下ろしているのは天元である。本日の彼はどうやら非番らしい。
杏寿郎は「端正」と表現できる顔立ちだが、天元に至っては「美形」と言う形容がよく似合う人だなあと、話しかけられた七瀬はそんな事を考えていた。
『何を…言っているのでしょう、この方は』
『ん?いつもの祭りの神じゃなくて、戦…の神って言った?』
七瀬と共に音柱に声をかけられたのは胡蝶しのぶ。彼女も天元と同じく鬼殺隊最高位の剣士、柱の一人である —— のだが。
「胡蝶、沢渡、無視すんじゃねえよ!」
音柱がじろりと女子2人を睨む。顔が整っている天元の睨みは、なかなかに怖く迫力がある。
「ぶっ」
ここでその様子を見て、盛大に吹き出したのは蜜璃。彼女はお腹を抱えて笑いだしてしまう。そんな蜜璃を隣で微笑ましそうに見ているのは、小芭内だ。
「ははは!宇髄!見事な空回りっぷりだな!」
「うっせぇ!煉獄!おい、甘露寺!笑うな!」
戦の神……天元は憤慨した様子で、杏寿郎並びに蜜璃へ睨みを効かせる。
「…………」
「…………」
杏寿郎の右隣に座り、言葉を発しない二人の男女。
一人は水柱の冨岡義勇で、彼は七瀬の兄弟子だ。もう一人はしのぶの継子・栗花落カナヲ。七瀬とは友人関係にある。
カナヲの右隣で、これまた無表情で座っているのは霞柱の時透無一郎。若干十四歳だがその優れた才覚で、剣を持って二ヶ月で柱へ昇格した天才である。
『戦の神って……具体的には何をするんだろう。よくわかんないなあ』