第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
「君は思いのほか、よく泣くな」
「だって……杏寿郎さんが優しい事を言ってくれるから」
七瀬は泣いたり笑ったり怒ったり……と感情表現が豊かだ。
中でも、泣くと言う行為は特に多いと思う。
「初めて会った時も泣いていた」
「あの時も優しい言葉かけてくれましたよね」
「そうか?」
「はい、杏寿郎さんはいつも私が言ってほしい時に丁度良い言葉をくれます。今もそうだし、初めてお会いした時もそうでした」
それは君も同じだ。ふっと笑みが口元に宿った俺は彼女の頭を撫でながら、こう伝えていく。
「以前にも言っただろう?君の事はよく見ている、と」
「はい……」
「自分が思いを寄せている人の事は常に目で追ってしまうものだ。そうすれば相手を見る回数も増えるし、その分何を求めているか、察する事ができるようになるんじゃないか?」
「私もあなたの事は見てますけど、まだわからない事が多いです」
「それはな……」
俺の中で出来うる限りの最小限の音量で、七瀬の耳元に思った事を伝える。
すると、大きなため息をつく恋人だ。さてため息をつくような事を言ったつもりはないが、どういう意味だろうか。
「……杏寿郎さんには本当に勝てません」
「そうか?」
恨めしそうな彼女の表情に満足した俺は、身につけている懐中時計を確認する。む、いかん!ここを出ないといけない時間になっているではないか!
桐谷くんに「また来る」と告げた後、宇髄宅へと二人で向かった。
これから胡蝶と七瀬の試合だ。日頃の稽古の成果が出れば良いのだが……。
「………俺の方が君の事を好きだからな。故にわからなくて当然だ!ずっと変わらない自信があるぞ」
これは桐谷くんの墓前で、七瀬に伝えた事だ。
人の心は移ろいやすいと言うが、今一度自分の気持ちをここに記そう。
俺は七瀬の事が好きだ! 今もこれからもそれは変わらない。
出来れば自分の方が、彼女を思っていたい。
何故なら ———
七瀬の事を考える度に、彼女を好きになるからだ。