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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第14章 緋(あけ)と茜を繋ぐ下弦の月 ✴︎




四谷怪談は真打ちの噺家が担当するらしい。真打ち —— 即ち師範に値する位置だ。
と、言う事は技量が一級品のはず。


「怖そうだなあ」

本堂の畳に座って持っているチラシに、視線を向けている七瀬は顔を引き攣らせていた。先程心の奥底から姿を見せた加虐心は、まだ表に出ているままである。

俺は彼女の頭にポン、と掌を乗せて「そんなに怖いか?」と問いかけてみた。

含み笑いが口元へ浮かぶのが自分でもわかる。


「鬼殺は出来て、怪談が苦手と言うのもおかしな話だが?」
「別物ですから。元々怖いものは苦手なんですよ」

じろりとこちらを睨む七瀬に、再びどうしようもなく愛おしさが込み上げる。
「そうか」と告げながら、彼女の頭から掌を下ろす。すると自分達の周りにいる人達の声が少しずつ静かになっていった。



“前座” と呼ばれる噺家の登場だ。彼はたくさんの拍手を受けたのちに、座布団に座って演目を始めた。

お題は「まんじゅうこわい」

これは古典落語の一つで「寿限無」「目黒のさんま」と一緒に広く知られた話である。
次に二ツ目と呼ばれる噺家が登場した。彼もまた大きな拍手を受けた後に演目を始めていく。

お題は「火焔太鼓」これも古典落語の一種だ。


そして ———

「次ですよね?お岩さん」
「ああ、そのようだな」

これが七瀬と共に、寺へ落語を観に来た一番の目的だ。

お題「四谷怪談」

創作落語に当たる演目である。
真打ちの噺家は流石だな、と唸るほどの口ぶりで、七瀬は終始震え上がっていた。うむ、これは確かに怖い!


恋人は俺の着物の袖をしばらく掴んでいたのだが、それだけでは不安だろうと思い、彼女の掌を両手で包んでやる。
すると震えが止まり、七瀬の口からふう……と長い息がはかれた。

大事ないぞ、俺が隣にいる。そんな思いを手に込め、ぎゅっと七瀬の掌を包み直した。



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