第14章 緋(あけ)と茜を繋ぐ下弦の月 ✴︎
「はあ、寿命が縮まりました」
寺から外へ出て来た。七瀬はゆっくりと深呼吸をする。
そこへ “ ぐ〜〜〜” と響き渡る彼女の腹の虫。
「ふ、はははは!! 君は何と言うか、本当に見てて飽きないな」
七瀬の頭ををポンポン撫でてしまう。
「それって褒め言葉なんですか?」
「もちろんだ」
眉を八の字に曲げる恋人の額に小さな口付けを落とすと、七瀬は両目を一瞬閉じる。
「杏寿郎さんって……」
「何だ?」
開かれた恋人の双眸を覗きこむと、こんな事を言って来る。
「稽古以外の時は本当に優しいですよね」
「そうか?自分ではよくわからないが…」
「優しいです。だから甘えっぱなしになりそうです」
「本望だ!俺は恋人は甘やかす物だと思うからな?もちろん言う時は言うぞ」
「はい、わかってます!」
笑顔を見せる七瀬を見て、安心した俺の腹からもぐ〜〜〜………と、腹の虫が大きく鳴った。
「ふふっ」
「仕方ないだろう。鳴ってしまったものは」
穴があったら入りたい。そんな自分をにこやかに見ている恋人だが、この顔はあれだな。俺をかわいいと思っている表情だ。
「む?その顔は……」
「杏寿郎さん!お腹がすきすぎて、背中とくっつきそうです」
何と!先手を打たれてしまった。よもやよもやだ!!
「まあよしとしよう。では少し遅くなったが昼食に行くか!」
「はーい」
俺は自分の左手を彼女に差し出す。
手を繋ぐとすぐに指を絡め、店に行くべく足を進めた。
『洋食が美味かったと甘露寺が言っていたな』
脳内に浮かぶのは元・継子の顔だ。
こののち、俺達は喫茶店に行った。七瀬は洋食のオムレツライスを注文した。初めて食したらしい。
俺はハヤシライスを「うまい!!!」と言いながら十食程、食べた。大変に美味かった!!
さて次回はどこへ行くか。活動写真も良いな。行った事がない物は今回のように七瀬と出向いてみたい。
無論、自分が好きな相撲、歌舞伎、能も行きたい。七瀬が興味を持ってくれれば、の話だが。
そんな事を考えながら、俺達は家路に向かった。