第13章 浅緋(あさあけ)、君に口づける ✳︎✳︎
彼が昨日の夜と同じように懐紙で丁寧に拭きとってくれる。
そうして私をじいっと見つめる日輪が2つ。
「どうしたんですか?」
杏寿郎さんに笑顔を向けると、前からギュッと抱きしめてくれた。
「杏寿郎さん………?」
私が背中にそうっと腕を回せば、更にぎゅうと抱きしめられる。
「君はやはりかわいい」
「……ありがとうございます」
かわいいもすごく嬉しいけど、“綺麗”ももっと言ってもらえるように頑張ろう。
目を閉じて彼の背中をそうっと撫でると、彼も私の背中を優しく撫でてくれた。こうやって同じように触ってくれるのも好きだなあ。
体だけじゃなく、心も繋がっているんだな、とそう思えるから。
「七瀬、恋仲になったと言う事で提案があるのだが」
「……何でしょう」
「こちらの家に来ないか?…完全に」
「あ、それ。私も相談しようと思ってましたよ」
「そうなのか?」と聞き返して来る杏寿郎さんに炭治郎とカナヲの話を伝える。
「禰󠄀豆子もいるし……と言う事で、なりゆきで始めた同居生活でしたけど、カナヲは内心嫌だろうなってちょうど考えてました」
私は顔を上げると、杏寿郎さんと向き合った。
「私がカナヲの立場なら、やっぱり複雑なので」
「そうか……」
彼はそう呟くと、自分のおでこをコツン……と私のおでこに当てる。
「少年達を疑うわけではないが、やはり若い男子。今までは何があっても仕方がない、と割り切れていたのだが……」
包まれた両頬からじわっと伝わって来る杏寿郎さんの掌。その温度が、また心地よい。
「今の七瀬は俺の恋人だ。愛しい君が他の者と生活を共にする。そう思うと、あまり気分が良いものではないな」
唇を一度ちう……と吸い上げた後、啄む口付けをくれる彼。