第13章 浅緋(あさあけ)、君に口づける ✳︎✳︎
✳︎七瀬からみた景色✳︎
チュンチュン………
雀が可愛らしく鳴く音が聞こえる。
ん、朝……?
目をこすりながらゆっくり開けてみる。すると目の前に杏寿郎さんの顔が視界いっぱいに入って来た。
「わっ、かわいい寝顔だなあ」
いつもしっかりと見開かれている双眸は閉じられていて、吊りあがっている眉もシュンとしたようにたれ下がっている。
形の良い小鼻からはスースー……と規則正しい呼吸。そして、瞼の下に生え揃っている濃く長い睫毛。うーん。私より長いよね、これ。
良いなあ……と思い、毛束の多いそれに恐る恐るそうっと触れてみれば「ん……」と言う声が漏れてドキッとした。
あれ?もしかして、これって……常中の呼吸なんだろうか。
だとしたら……と考えていた刹那 ———
「”かわいい”は男に言う言葉ではないな」
目の前の2つの日輪が突然開いた、かと思うと私の唇にちう、と温かい彼の唇が届く。
「んぅ」と音が漏れてしまう、少し深めの口付け。
彼に一通り口の中を堪能されると、銀糸を引きながらゆっくりと杏寿郎さんの唇が離れていった。
「……おはようございます」
「おはよう」
「いつから目が覚めてたんですか……」
「君が目を覚ます少し前から」
あれ?それって、大分前じゃない……
もう………と少しむくれた顔をすると、杏寿郎さんは私の左頬を優しく包んでくれる。大きくてあたたかい掌に心が安心した。
「かわいいと言うのは今の君のような顔を言うのだが?」
「からかわないでください」
「からかってなどないぞ」
杏寿郎さんはそう言った後、自分の体をスッ…と起こす。
そして、私の体の上に跨るとさっき包んでくれた左頬をゆっくりと撫で始めた。
彼が自分を見る眼差しは継子ではなく、恋人を慈しむ —— そんな雰囲気を醸し出している。
「本当の事だ。君はとてもかわいい」
「んっ、」
口付けが瞼と鼻、両頬に落ちる。くすぐったさと気持ちよさで体が少し捩れた。
「何度伝えても足りないぐらいにな」