第13章 浅緋(あさあけ)、君に口づける ✳︎✳︎
“七瀬を誰にも渡したくない”
本当にこんな気持ちは初めてだ。
俺が心の中で嫉妬と向き合っている事を知っているのか?
……君は。
「あ…杏寿郎さん、そろそろ起きませんか?」
七瀬がそう提案するのも納得だ。薄暗い外の様子が明るく色づいている。
朝の稽古をしないといけないな。
「そうだな、湯浴みするか」
「え?」
彼女は驚いて目を見張った。
「杏寿郎さん、お先にどうぞ。私、用意してきますから」
七瀬は散らばった衣服の中から、下着と寝間着を手に持ち、そそくさと部屋を出ようと準備し始めた。
「何を言う?君も一緒に行くぞ」
俺はフッと笑って、恋人の頭にポンと手を乗せる。
「えぇっ??恥ずかしいんですけど」
「もうお互い全部見ただろう?今更言う事ではないと思うが」
何を恥ずかしがる必要がある?少し考えてみた。すると即座にああなるほど、と俺は合点がいった。
「よく見える所で恥ずかしがる君もかわいいだろうな」
「どうして私の考えている事がわかるんですか?」
どうやら図星だったらしい。頭から湯気が出そうなぐらい、彼女の顔が赤面したからだ。
「どうしてわかるか、か。そうだな」
俺はまた少し考えてみる。しかし先程思案した時と同じように、その答えはすぐに出た。
「君の事をいつも見ているからだろうな。今は嬉しいのか、怒っているのか、悲しいのか、楽しいのか。それらをよく考えているぞ」
七瀬がはにかみながら、俺を見た。どうした?照れたか?全て本当の事だぞ。
杏寿郎目線 〜終わり〜