第13章 浅緋(あさあけ)、君に口づける ✳︎✳︎
「……ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに言うと、目を閉じて背中をそうっと撫でてくれた。俺も七瀬の背中を優しく撫でると、昨日触れた傷に掌が当たった。
男の俺は傷などいくらあってもかまわないし、気にならない。しかし、女子は普通に生活していれば、こんな傷を体に刻む事はまずない。昨日俺に見せる事をかなり躊躇していたぐらいだ。
「辛い」「嫌だ」傷に対してそういう言葉を俺に発した事はない君だが、内心はやはり複雑なのだろうな。
しかし、この傷も君の一部。七瀬が鬼と必死で戦った軌跡だ。
俺はより一層、彼女が愛おしくなり、労うように背中の傷を優しく撫でた。ああ、そうだ。この話をしておかねば。
「七瀬……恋仲になったと言う事で提案があるのだが」
「……何でしょう」
不思議そうに問いかけて来る恋人にこんな事を言ってみる。
「こちらの家に来ないか?……完全に」
「あ……それ、私も相談しようと思ってましたよ」
「そうなのか?」
そして彼女から竈門少年と栗花落少女が最近恋仲になったと言う話を聞く。ふむ、竈門少年も隅におけないな。
「禰󠄀豆子もいるし……と言う事で、なりゆきで始めた同居生活でしたけど、カナヲは内心嫌だろうなってちょうど考えてました。私がカナヲの立場なら、やっぱり複雑なので」
「そうか……」
俺はそう呟くと自分の額をコツン、と七瀬の額に当てる。
「少年達を疑うわけではないが、やはり若い男子。今までは何があっても仕方がない、と割り切れていたのだが……今の七瀬は俺の恋人だ。愛しい君が他の者と生活を共にする、と思うと……あまり気分が良いものではないな」
そう、気分は良くない。これが嫉妬と言う感情だろうか?
恋人の顎をくいっと掴むと彼女の唇を優しく吸い上げて、また啄む口付けを贈った。