第2章 蛍離宮
各王の妃様方は通常、後宮のそれぞれの御殿のお部屋で暮らす。
二の王の第八妃、燦姫様は一番後にお輿入れされ、また「予定外」?だった為、御殿にお部屋がなく、急遽御殿の裏庭の隅に居室が建てられたとのこと。
裏庭の小さな溜池の畔にあり、夏には蛍が水を求めて飛び交うので「蛍離宮」と呼ばれていた。
「冗談じゃないわよ!何が蛍離宮よ!冬は寒いし夏場は虫が出るし!」
と姫様は悪態をついているが、他の妃様方と離れていられるのが実は気に入っているらしい。
(この性格じゃあそうだろうね。)
だけど後宮の決まりでお食事は広間で妃様方は一同揃って食べなければならない。
毎回面倒がって食前に深酒をしてしまう姫様。
婢女は給仕の為、姫様について広間へ行く。
初日の今夜、裸の私は姫様とネコさんの後ろを赤い顔で俯いて後宮の廊下を歩いていた。
「あー!もう鬱陶しいねえ!」
姫様が後ろに回り込んで私の髪を掴んで前を向かせた。お酒の匂いが濃い。
「ほら、胸張って前歩きな。ぷっ、張るほどの胸ないか!」
姫様は私のささやかな乳房を指でピンと弾いた。
「おやおや?いっちょまえに固くなりましたかな。」
更にピンク色の尖端を摘もうと指を伸ばしたところでネコさんに制された。
「はいはい、ごめんなさいねえ〜時々どっちが主人だか分からなくなるねえ〜」
広間までの道中、多くの女官や婢女とすれ違ったが皆、食事を知らせに来た女官の様に冷たく目を逸らしていた。
――――――広間
私たちはどの妃様よりも遅く席に就いた。
姫様が囁いた。
「いっつもあの上座の大奥様(一の王の第一妃)とかに遅刻を怒られるんだけど今日は皆ネズに気を取られてて助かったワ。」
他の婢女は皆自分の姫様に甲斐甲斐しく給仕しているというのに、私は裸ん坊で口を塞がれている。両手も縛られているので何も出来ない。
―――広間にはもう一組例外がいた。