第2章 蛍離宮
「服?ドブネズミに着せる様な服なんてないよ。」
(ひどい!)
「じゃ、じゃあさっきまで着てた服は?」
「あんなドロだらけの服着る気かい?カンベンしてよ、そこらじゅうドロだらけになっちまう。」
「……洗って着ます!おばあちゃんが作ってくれた大事な服なんです!」
「へーばあさんが?道理で地味だと思ったわ。やめてやめて、地味な格好でウロウロしないでよ、気が滅入るから。
それよりおマタもキレイに洗ったんでしょうねえ。」
姫様は意地悪そうに笑うと手にした杯をグィッと煽った。
(……!…態度といい、言葉遣いといいこれでも妃様なのかしら!)
「あーやだったら辞めちゃっていーよ。ネコ、去年のコよりもったよね。」
ネコはコクリと頷いた。
「そうそう去年のコは迎えに行く前に帰っちゃったんだよ、辛坊ないねえ〜あはははは!」
私はぐっと拳を握りしめた。
(ここで辞めちゃったら負けた様な気がする。こんなヒトに負けたくない!それに辞めたら預かり金は返さないといけない。やっとおばあちゃんの持病の薬が買えるのに、ダメだ辞めちゃ。)
「じゃ、じゃあせめて下着だけでもっ!」
「あーもう、チューチューチューチューと五月蝿いドブネズミだね!ネコ、黙らせて。」
既に用意してたのかネコさんは私の背後から手慣れた手つきで「猿グツワ」をかけた。
(………!…)
あまりに早業だったので抵抗出来なかった。
「あとそのみっともない手も何とかしてやって。」
私は無意識に両手で恥ずかしいトコロを覆っていた。
ネコさんにやんわりと両手首を掴まれ、背中に回されると絹紐で縛られてしまった。
「それでよし。ドブネズミはおとなしくしてな。まどろっこしいから「ネズ」でいいか。これからあなたの名前は「ネズ」だ。」
(ええ〜)
猿グツワを掛けているので反論出来ない。
「ネコに、ネズ!これは傑作傑作!」
姫様はコロコロと笑った。
「失礼します。」
その時、厨房の女官がやって来た。
「燦姫様、お食事でございます。」
その女官は裸で縛られた私の姿を見て一瞬目の色が変わったが、すぐに目を逸らし何事もなかったかの様に出て行った。