第16章 太陽王
夏至の朝。
私は「準備」の為、早く起きて離れを後にした。
「姫様、行ってきます。」
「ああ、しっかり務めてきな。」
あれからナンは離れを訪ねてこなくなった。
(……まだ怒ってるのかな。)
燦姫様とネコさんに見送られてやって来たのは皇后様の浴室。
女王になる今日だけ使わせてもらえるのだ。
浴室の前の化粧部屋で私は着ているものを全て脱がされた。後ろで一つに束ねていた髪も解かれる。
「ここから先はもう婢女ではありません。
女王陛下としてお振舞いを。」
巫女役の女官が恭しく跪いて言う。
まず、白い花をいっぱい浮かべた金の浴槽で沐浴をさせられた。
(いい香り………)
次に絹布で身体中を浄められる。
「お御足を。」
左右に侍った巫女に片方ずつ脚を預ける。
脚の間に絹布を持った巫女の手が滑り込んできた。
(………このあたりで普通の女の子は怯んじゃうんだろうな。)
「さすが、今年の女王陛下は堂々としていらっしゃる。」
浴室を出された私は化粧部屋に置かれた寝台の上に横たわらされ、浄めた身体に上質な香油を塗り込まれた。
薄緑色の下衣を纏って化粧台の前に座る。
丁寧に洗い浄められた髪が櫛梳かれた。
「あっ、髪そのままでいいですっ。お化粧もどうせ取っちゃうんだからしなくてもっ。」
「なりません!」
巫女にピシャリと言われた。
「女王陛下は一番美しい姿を皆の前にご披露しなくてはいけません。」
長い時間をかけて化粧を施され、高々と結い上げた髪に翡翠の簪を差して仕上げられた。
日が傾き始め、ようやく「お出まし」の時がやってきた。