第15章 産声
後宮の門から一台の車が出発しようとしていた。
王の妃しか乗ることが許されない金と絹布が貼られた絢爛豪華な車だ。
乗っているのは五王様の第二妃艶姫様…………
と沙良だ。
「艶姫、頼んだぞ。」
「しっかりと村まで送り届けますわ。旦那様。」
妖艶に微笑む艶姫様は沙良と(私も)故郷が一緒だ。
「まだ、三王と麗姫の残党が残っているかも知れない。沙良一人で帰すのは危険だが艶姫の「里帰り」に紛れれぱ安心だろう。」
「いい考えだったね。沙良、赤ん坊も連れて行きたいだろうけど「王族」の血をひく子だ。いつ命を狙われるか分からない。辛いだろうけど……分かるね。」
燦姫様はそう言って沙良の細い肩を抱きしめた。
コクリと頷く沙良。
赤ちゃん―――皇子は城から少し離れた山里に住むナンと五王様の乳母だった女性に預けられた。年は取っているがしっかりとした女性だ。
「本当に可愛い子だよね、時々様子を見に行って手紙に書くからね。」
「………当たり前じゃない。あたしの子だもん。可愛いに決まってるわ。」
と言って沙良は例の片方の口角を上げた笑顔で私を見た。
(だいぶいつもの沙良に戻ってきて良かった!)
「じゃあ、車を出すわよ。」
艶姫様が御者に命じ、車は砂煙を上げて後宮を後にして行った。
「ネズ、泣いてるの?」
「……うん、姫様。ホッとしたのとちょっと寂しい……のかな?ぐすっ……」
「しょうがないねえ。ナン、手巾を貸してやりな!」
「………っ……ちくしょ、持ってねえや!
ここでいいだろ!」
と言ってナンは私の背中を引き寄せた。
最近更に逞しくなった胸に顔を押しつけられる。
「ほー、ナンもずいぶんと大人になったもんだ!」
五王様がからかう。
「うるせーよ。五兄!」
ナンは真っ赤になって照れながらも、私を抱く手を緩めなかった。