第15章 産声
車の中には楽しげな笑い声が響いていた。
「沙良!あなたって面白い娘ねえ〜
私の婢女だったら良かったのに!」
「本当に!あたしも艶姫様のところに行きたかったです〜」
二人は気が合う様だ。
「沙良、村に帰る前にちょっと寄り道してもいいかしら。」
―――きらびやかな建物の前に車が停められた。
「ここは―――――」
「遊郭よ。私の家は貧しくてね、私はここに売られたの。
そしてここに通ってきた五王様が妃にしてくれたのよ。
女将にはお世話になったから挨拶してくるわ。沙良は車で待ってて。」
「あ、あたしも行くっ!」
遊郭の中はどこもかしこも金ビカで、美しく化粧をしたいい匂いのする女達が行き交っていた。
(……竜宮城みたい。)
「艶!久しぶりじゃないか!……あ、今は艶姫様とお呼びしなきゃならないね。」
「女将、元気そうで良かった。」
女将と呼ばれる女性は大柄で一見厳しそうだが、どこか温かさも秘めた人だった。
「里帰りの前に女将の顔を見に寄ったのさ。ここは変わらないねえ。」
「いいや、あんたが輿入れしてからはずっと不景気だよ。」
女将さんは煙草の煙を細く吐き出した。
艶姫様は女将さんと他愛もない話を少しした後、
「そろそろお暇するわね、今日は先を急ぐから。」
目で沙良を促した。
「あ、あたし!」
沙良はスクッと立ち上がった。
「どうしたの?沙良。」
「あたしここで働く!」
「ええっ?!」
驚く艶姫様。
「沙良、あなたここがどういう所か分かって言っているの?」
「うん、知ってる。
女将さん、沙良です。今日からよろしくお願いします!」
沙良は女将さんの前に歩み寄って礼をした。
「ちょっと、沙良!」
「……いいじゃないか、艶。」
女将は煙管の灰をポンと落とすと立ち上がり、沙良の顎をクイと持ち上げた。
「何やら訳ありの娘だね?
器量も悪くないし、いい瞳をしている。
いい妓になるよ。」
艶姫様は溜息をついた。
「沙良、あなたは言ったらきかない性質(たち)だわね。」
「艶姫様、ネズに伝えて。手紙は村じゃなくてここに送るようにって。」