第13章 ニ通の手紙
――――その少し前の時刻(とき)、既(すんで)のところでナンと五王様たちを躱(かわ)した麗姫様と三王様は、簀巻にされた沙良を後宮に運び込んでいた。
麗姫様の部屋の床にゴロリと転がされた沙良。
苦しそうに大きなお腹を抱えてうずくまっている。
「沙良!お前…………」
簀巻きにしていた筵が水浸しになっていた。
「産気づいちゃったよ!この娘(こ)。」
「何だって?!」
「ここで産ませるよ。その方が都合がいいかもしれないさ。
…………雪菜!」
部屋に居た雪菜は目の前で起きているあまりの出来事にただ茫然と立ちつくしていた。
急に名前を呼ばれて縮み上がった。
「こっそりとタライにお湯を持っておいで!
万が一誰かに見つかったら私の子が産まれるとお言い!だけど絶対に誰も連れてこないでよ!」
雪菜は後ずさる様にして部屋を飛び出していった。
「おいおい、大丈夫か?あの婢女(こ)に知られて。」
「事が無事済んだらすぐ始末するわ。」
「……怖いねえ。欲に塗れた人間は恐ろしいねえ。」
「三王(貴方)も一緒でしょっ!」
「やれやれ……でももったいないなあ。可愛い娘だ。始末する前に一回サセてくれよ。」
麗姫様は肩をすくめて溜息をついた。
「本当に仕方ない人だね!」
「可愛い娘と言えばあの燦姫のところの婢女はどうした?」
「金で雇った男たちに攫わせたわよ。
今頃西の山中で好き放題されてるわ。」
「そっちももったいないなあ。七王たちを虜にするくらいだ。相当な上玉だろう。」
三王様は目をギラつかせて舌舐めずりをした。
「うぅっ…」
床に転がされた沙良が苦しみのあまり声を上げた。
「そんなことよりも早くこっち来て!もういつ産まれてもおかしくないよ!
あんたが取り上げるんだよ!
ああもうこれ邪魔。もう外してもいいわね。」
麗姫様は腰に巻きつけていた偽物のお腹を外して寝台の上に放り投げた。
「大声で喚くんじゃないよ!」
苦しむ沙良の口に手巾が丸めて捩じ込まれた。
――――ほんの僅かに開いていた婢女部屋との境の戸から覗いていたネコさんの切れ長の目が光った。
そして音も気配も立てずに婢女部屋の小さな天窓まで跳び上がり、シュルリと抜け出していった。