第12章 コケモモ
燦姫様はぷっと吹き出した。
「残念だけど今年はやれないね。皆楽しみにしてたけどね。」
「……っ!やるつもりでいたのかよ!」
ナンは真っ赤な顔をして怒っている。
「どうしてナンが怒るのさ。」
五王様もくすくす笑っていた。
春浅く梅の花がぽつぽつと咲き始める頃に「花見の宴」は行われる。
その晩、ナンと私は前回と同じ様に見張りに酒を飲ませて岩牢の中に入った。
沙良のお腹はこの前よりも迫り出していて産み月か近いことを表してした。
が、その顔はますますやつれを見せていた。
「沙良!」
私は駆け寄って抱き締める。
沙良は何も言わす弱々しい力で抱き締め返してきた。
「ネズ!梅花がいないぞ!」
「え!?」
牢の中は沙良一人だった。
「沙良、沙良、梅花はどこに行ったの?」
最悪の事態が頭をよぎる。
沙良は焦点の合わない目をして応えた。
「……予定より早く産まれちゃったの。」
「えぇっ…………」
「…………女の子だったよ……」
(!)
「で、どこに連れて行かれたんだよ!?」
ナンの顔も焦っている。
「麗姫様が皇女は要らないって、梅花と生まれたばかりの赤ちゃんを追い出したの………故郷(くに)に帰すって言ってたけど………」
私はナンと顔を見合わせた。
考えたことは一緒だ。
「沙良、心配ないからね、五王様が軍を出してくれるから。」
「五王様?軍……」
ナンが救出作戦を手短かに話した。
「五王様の軍は最強だぞ!」
「だから安心して、沙良。
あ、これ持ってきたよ。」
私は干したコケモモの入った包みを沙良の手に握らせた。
「見つからないように、食べてね。」
沙良は包みをきゅっと胸に押し抱いて私を見つめた。
数え切れないほど泣いたのだろう。涙がすっかり涸れてしまって落ちくぼんだ目をしていた。
「………ありが……とう……」
「なーんか沙良らしくなくてつまんないなあ!」
私は少しでも元気づける為に冗談を言った。
沙良は少しだけ微笑んた様な気がした。
私たちは全速力で城に戻った。
広間で宴に出ている五王様にナンが視線を送り呼び出した。
(五兄!大変なことになった!)