第10章 追跡
(………それであの夏の夜、五王様は本当に精霊みたく庭の奥に消えていったのか……)
「どうしたネズ?」
「ううん、何でもない。急ごう!」
ナンと私は馬を駆った。
(待ってて、沙良…………)
「岩牢」に着いた私たちは手はずどおり門番の二人に酒を渡した。
「三王様の遣いの者だ。明日は新年だから今夜はお前たちも存分に楽しむ様にとのことで預かってきた。
妃様に知れると煩いから黙っていろと言付かっている。」
二人は嬉しそうに酒と肴を受け取った。
すぐに酒盛りとなり、酔ってしまった彼らはペラペラと喋り出した。
「三王様は麗姫様の言いなりだなあ。」
「ホント、ホント。でも麗姫様はお優しい方だよ。ふしだらに誰の子か分からねえ赤ん坊を作っちまった婢女をかくまってやってるなんてなあ。」
(そういうことになってるの!?)
やがて門番たちは酒が回り、いびきをかいて寝入ってしまった。
「彼らには悪いが酒に混ぜものをしておいた。朝まで起きないだろう。
さあ、ネズ。いよいよこの中に入るぞ!」
「うんっ!」
私は岩戸に飛びつき、渾身の力を込めて開けようとした。
が、ビクともしない。
ナンが私の後ろに回り込んで手を添えると岩戸はきしみながら動いた。
「さすがナン!」
「へへ、鍛えてて良かったよ。」
開けた岩戸の向こうに更に木戸があった。
がっちり施錠されている。
「ずいぶんと厳重だな。」
ナンはぐっすり眠る門番の腰からそっとカギを引き抜いた。
木戸を開けると、ぼんやりとした灯りが漏れた。
奥の壁にもたれて座り生気のない顔をしているのは――――梅花だった。
端近くにペタリと座って俯いていた娘がゆっくりと顔を上げた。