第10章 追跡
「あの中に秘密があるな。」
「沙良たちがいるのかしら。」
「しっ!もう出てきた。」
岩戸から出てきた麗姫様は布袋の替わりに籠を抱えていた。籠の中に見えたのは例の紅い下履き!
三王様と麗姫様は再び馬に乗り、来た時と同じ速さで戻っていった。
「ナン!麗姫様の持っていた籠に沙良のものがあった!」
「間違いなくこの中にいるな。」
「助けなきゃっ!」
「………すぐに飛び込みたいけど今夜はここまでだ。五兄が言う様に慎重にやらないと。」
城に戻り、五王様と燦姫様に見たものをすべて報告する。
「あれは前帝の時代に使っていた「岩牢」だな。」
「そこに婢女たちを閉じ込めて、麗姫のお腹は偽物………と。
何を企んでいるか大体は想像がつくわね。」
「早く助けに!」
「鼠姫焦るな、麗姫たちのことだから巧妙に仕組んでいるはずだ。下手に動くとこちら側が悪者に据えられるかもしれない。」
「想像どおりなら沙良たちの身の回りはちゃんと世話されてるよ。」
「次は「岩牢」の中に入って現状を確認することだな。
三王たちと鉢合わせしない日を選んで行こう。」
「――――新年の宴の晩がいいね。
華々しい席が好きな麗姫だ、まして今年は懐妊中で宴の中心となるだろう。夫婦揃って一晩中かかりきりさ。」
私は居ても立っても居られなかったけど待った。
待ちに待っていよいよ新年を迎える晩となった。
ナンと私は策どおり三王様の遣いに化けて「岩牢」へ近付く予定だ。
「これに着替えて男のふりをするのね。」
私は躊躇なく着ていたものを脱いだ。
「ちょ………やめろ!向こうで着替えろよ!」
「どうして?少し前まで素っ裸見てたじゃない。」
「…………!!……」
最近はネコさんの代わりに給仕もするので私は服を着せられていた。
燦姫様と五王様は声を押し殺して笑っている。
「じゃ、行ってきます!」
「おう!しっかり頼むぞ!」
「ネズ、気を付けて行くんだよ。」
姫様は私の手を握った。
「まったく、新年だってのに深酒出来ないよ。」
「ネズ、こっちから回ろう。後宮は新年で人が多い。」
ナンは木橋からヒラリと蛍の池の畔に降りた。
「えっ!?」
「知らなかったか?この池は五兄の御殿に繋がってるんだ。俺も五兄もここへはこっちから来てんだ。」