• テキストサイズ

燦姫婢女回顧【R18】

第9章 疑惑


悶々としたまま、日々は流れていった。

季節は進み、木々は色づきひんやりとした空気に後宮も包まり始めた。



そんなある朝、桃を形どった可愛らしいお饅頭が届けられた。

「妃のご懐妊が分かるとお祝いに配られる饅頭だよ。」

姫様が教えてくれた。

「六王様の輝姫様?」

「誰だってそう思うよね、違うんだ。

――――――――麗姫様がご懐妊だよ。」


「えぇっ!?」
私も、ネコさんも細い目を丸くした。

「このタイミングでご懐妊となるといろいろと疑わしいねえ。」



「姉上、所望のものが手に入ったぞ。」

五王様が巻物を持ってやって来た。後ろからナンもついて来ていた。

「よお。」

ナンはいつもの様に私に「土産」を手渡す。

「木の実だ。ネズの好きな。

何だ、まだ顔色良くないな。」

ナンが私を呼ぶ時は相変わらず「ネズ」だ。


「………やっぱり沙良のことがずっとひっかかってて。」


「これを見たら何か手掛りが掴めるんじゃないか?」

五王様が持ってきた巻物を拡げた。

「これは?」

「今年これまでに後宮を去った者の記録だ。
役人に頼んで持ってこいと姉上から命じられていた。

鼠姫、面倒見が良い主人で良かったな。」

「……そんなんじゃないよ!暗い顔した婢女はカンベンして欲しいだけだ。」

「まあ、とにかく見てみよう。」


五王様の指が墨で書かれた文字を追う。

「杏珠……茅乃…………」

「茅乃?あの夏至の女王の娘ね。」

「そうだ。あれからしばらく錯乱が治まらなくて昼夜問わず喚いていたそうだ。そのうち何も喋らず食べ物も口にしなくなってぼんやりとしたままになってしまったから里に帰したそうだ。」

「………完全におかしくなっちゃったんだねえ。」

「だから来年の祭りはどうするか、今王族で考えているところだ。


さて、続きを見よう。

梅花………沙良。」


「沙良!やっぱり辞めているの?!」
私は思わず叫んでいた。

「日付はあの薬湯事件の翌日になってるね。」

「!……じゃあ薬湯すり替えたのがバレて追い出されたの?!」

「何とも言えないな。だがあの娘の性格なら絡んだネズの名を出すだろう。ネズの身に何もないということはその可能性は低いな。」


「………きな臭いね。」 

姫様はしばらく考え込んでいたが唐突に口を開いた。

「ネコをやろう。」
/ 99ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp