第9章 疑惑
「そう!それと同じものですっ!
って私の服棄ててなかったんですね。」
「ばあさんが縫った大事なもんだろ?そこまで私は意地悪くないね。」
「麗姫のところはここの次に婢女が居つかない部屋でね。去年の娘もその前の年の娘もいないだろう?」
去年入ったという杏珠そして今年の梅花と立て続けに辞めて今度は沙良だ。
「ここより待遇はすごく良いのに。」
「悪かったね!」
「あっごめんなさい、つい…………
えぇっと……麗姫様は陰で婢女を虐めているのかな?」
薬湯の一件を思い出した。
あの「事件」はこっそり五王様から六王様に伝えられ、六王様は愛妃を守る為に輝姫様を一時的にお里帰りさせている。
『慣れない異国でご体調を崩された。』という名目だ。
外国に居られれば後宮の誰かに危害を加えられる心配はないだろう。
「お人好しのネズの気持ちも分かるけどあまり他の部屋のことに首を突っ込まない方がいいよ。
後宮(ここ)は怖いところだよ。」
武道場。
今日も一心に弓の稽古に勤しむナン。
「精が出るな。」
いつの間にか五王様が後ろで見ていた。
「聞いたぞ。」
「…………」
ナンは無言で放った矢は大きく的を外した。
「大臣の娘の輿入れ、断ったって?」
六王様の次はナンが妃を娶る番だ。
もう御殿の建築も始まっている。
「俺の妃は俺が決める!」
ナンはキッパリと言った。
「……鼠姫か。」
ナンは耳まで赤くなる。
「確かにあの娘は機転も効くしいい娘だな。だが婢女が妃とは前代未聞だな。」
「俺はそんなこと気にしない。」
「素性を調べたが北の寒村出で父母は不明。祖母と言われる者と畑をやって暮らしていたらしいな。」
「どんな生まれでも関係ねえ!鼠姫は鼠姫だ!
五兄のニ妃様も寒村出じゃないか。」
「あぁ、しかも廓(くるわ)にいた。あの一王(じいさん)方を説得するのに骨が折れたな。」
「頭固いからな。」
「それだけじゃない。後宮では何かと風当たりが強いぞ。皇女だった六王の妃ですらあれだ。」
「そんなの判ってる!俺が鼠姫を絶対守る!」
―――――ナンが次に放った矢は的のど真ん中を貫いた。