第9章 疑惑
「麗姫。」
その晩、燦姫様はネコさんを伴って三王様の後宮を訪れた。
「燦姫姉様!」
ふっくらとしたお腹をかばう様にして麗姫様は長椅子からゆるゆると起き上がった。
部屋の中は方方から届けられた祝いや見舞いの品で溢れていた。
「この度は御目出度う、お健やかにお生まれになります様に。」
「わざわざお祝いに来てもらって有難うごさいますぅ〜」
燦姫様は麗姫様の甲高い鼻声に虫酸が走ったがぐっと堪らえた。
「身体の具合はどうなの?」
「それがあんまり良くないんですぅ。私身体が弱いじゃないですかぁ〜」
(知らねーよ。)
「それは良くないね。世話をする婢女の数が足りていないと聞いた。出産まで私のこの「ネコ」を使ってはと思って。」
「まああ、燦姫姉様、なんてお優しいの。
でも、雪菜一人で何とかなってますしぃ。」
「王様の跡継ぎのご母堂となるかも知れない大事な身体に障りがあってはいけない。
うちのネコは口が利けなくて学もないけどよく働く娘だよ。」
麗姫様の目の色が変わった。
「口が利けない?!――――まああ可哀想に。いいわ、私が使ってあげますわ。」
「………っ!は、はあい、どうぞどうぞ。」
「で、ネコを置いて来たのか。」
「そうよ、五王。怪しい動きは逐一知らせる様に言ってある。」
「ネコが口を利けたとはな。」
「あら?言ってなかったっけ?すごく可愛い声で鳴くのよ。だから他の人に聞かせたくないから私以外と口を利くなと言ってあるだけ。」
「姉上〜。」
「字も達者なもんだよ。学者の娘だからね。よく手紙を代筆させてるんだ。」
「姉上は悪筆だからな。」
「いつも一言多いんだよ!
ところで麗姫は『ネコが口を利けない』と云ったら表情を変えた。あれは絶対何か隠しているね。」
こうして私たちの「諜報作戦」が始まった。
すぐにネコさんが有力情報を持ってきた。
時々麗姫様は真夜中に部屋を出て行くという。こっそり後をつけたら(ネコさんは本当に猫の様に足音を立てないで歩くのだ。)馬舎で三王様と落ち合って二人で馬に乗り、城の裏門から出て行くといった。
「私、追ってみる!」