第9章 疑惑
「雪菜、待って!雪菜!」
私は洗濯場へ向かう沙良の同僚の雪菜を追いかけていた。
やっとのことで追いつき、袖を掴んだ。
雪菜は無言で気怠げに振り返った。
「沙良はホントに辞めちゃったの?」
雪菜は眉間にシワを寄せて渋々口を開いた。
「………そうよ。」
「どうして?!麗姫様にあんなに大事にされて女官になるって張り切ってたのに!」
「知らないわよ!そんなこと……」
雪菜は沙良の取り巻きの一人だったのに素っ気ないものだ。
「袖放して。姫様からあまり他の部屋の人と話さない様に言われてるから。」
(………!?)
雪菜は私の手を振り払おうと袖を勢いよく引いた。そのはずみで持っていた籠から洗濯物が廊下に散らばった。
「もうっ!!」
雪菜は洗濯物を手早く拾い集め籠に突っ込むと逃げる様に去って行った。
(あれは…………)
一瞬だったが私は見逃さなかった。
散らばった洗濯物の中にあった「紅い下履き」。
あれは沙良のだ。
あの紅色は私たちの村で採れる紅花からでしか出せない。
私も同じのを履いてこの後宮に来た。
私のおばあちゃんが揃いで縫ってくれたものだ。
沙良はぶつくさ文句を言っていたが紅い下着は「厄除け」になると聞いたら素直に身に着けた、
辞めた者が忘れていったなら特に下着ならすぐに処分するに違いない。洗濯をしているということは……沙良はまだいる?!
「あぁっ!何だ何だ?その辛気臭い顔は?」
離れのお掃除をしながら考え事をしていたら、姫様が頭を小突いてきた。
「欲求不満かい?私とネコで昨夜あんだけ可愛がってやったのに足りなかったかい?」
「ちっ違いますっ!」
あの夏至の夜以来、私は時々姫様とネコさんの寝床に呼ばれていた。
「……実は沙良が…………」
私の話を聞いて姫様はクスッと笑った。
「何だい?あの娘には散々苛められてきたじゃないか。居なくなって万々歳じゃないのかい?」
「……………」
私は紅い下履きの話もした。
「あぁ、あの紅花染のだね?
ネコ、持っておいで。」
ネコさんは奥からきちんと洗って畳まれた私の服と下履きを持ってきた。