第8章 沙良
―――――数日後の夕方、干していた洗濯物を取りに行くと、洗濯場でまた沙良が大騒ぎしていた。
「今度はどうしたの?」
私が近付くと沙良は怒りで赤くなった顔をブイと背けた。
取り巻きの一人の雪菜が教えてくれた。
「今夜、麗姫様のところに三王様がいらっしゃるのだけど「床役」を命じられたのが梅花なのよ。」
そう言えば梅花の姿が見えない。
「床役」とはこの後宮独特の言い方で姫様方が王様をお迎えする夜にその寝床の用意をする婢女のことだ。
下働きの婢女にとって艶かしい「床役」を任されることは名誉なことなのだ。
「この間去年入った婢女の杏珠さんが辞めちゃったから次の「床役」はあたしなのに。何で梅花なのよ。デブで不格好なくせに!」
この言い様にはさすがに腹が立った。
先日、沙良を本当に心配して私を呼びにまで来た友達思いの梅花なのに。
「……沙良、友達を悪く言うのはやめない?」
沙良は眉をつり上げて言い返してきた。
「友達?友達なんていないわ。あたしの周りにいるのは皆あたしの「引立て役」よ。あんただってね。」
………取り巻きたちの空気か変わった。
(うわあ、元から自信家だったけど麗姫様にちやほやされてだいぶテングになっちゃってるなあ………もう知らないっと。)
私は黙って背を向け、さっさと洗濯物を取り込んで離れに戻った。
立秋を過ぎて朝夕少しは涼しい風が吹く様になった頃、六王様が第一妃様をお迎えする婚儀が行われた。
真新しい御殿の後宮に入られるのは「輝姫」様――――南隣の大国「輝国」の皇女様だ。
だがいわゆる「政略結婚」ではない。
ナンのすぐ上の兄王である六王様は学問に秀でていたので、数々の名高い学者を擁する輝国へ「留学」をされていたのだ。
そこで偶然出会われて恋に落ちたのが輝姫様だ。
この「おとぎ話」の様な本当のお話に城の女性たちは皆胸ときめかせた。
仲睦まじく見つめ合う若いお二人を誰もが祝福した。
婚儀の翌朝にはお祝いの紅白のお餅が王族と妃たちに配られる。
「う〜とても食べられないわ、ネコとネズで食べて。」
祝いの宴でまた飲み過ぎた燦姫様は寝台に臥せっている。
「……まったく姉上はしょうがない。
あ、鼠姫の餅はこれだ。」
見舞いに来ていた五王様が私の手にお餅の包みを載せる。