第6章 夏至祭
「ああ、ナンか。
あいつは武道場だ。こういった祭りは好きじゃないんだとさ。いい加減大人になれってこった。」
と言って五王様は桟敷に座っていた私の膝をまくらにゴロンと寝転ぶ。
(!)
「でも今宵は邪魔者かいないから仙女殿を独り占め出来るな。」
私の膝の上で満足そうに微笑む五王様。
絹糸のような髪が脚の間に当たってくすぐったい。
「ちょっと五王、妃ほっといていいの?」
姫様に窘められる。
「女たちだけで気楽に愉しんでるさ。
そんなことより―――いよいよ女王陛下のお出ましだ。」
派手な銅鑼が鳴らされると、巫女役に手を引かれて今年の夏至の女王―――茅乃が姿を見せた。
歓声に湧く庭。
話に聞いた通りの金糸銀糸に彩られた着物が小さな身体に重たそうだ。
玉座の真ん前の沙良はやはり悔しそうに唇を噛み締め、鬼の様な形相で茅乃を睨んでいる。
(あれ?茅乃?)
綺麗に化粧を施され、皇女様の様に品良く髪を結い上げられているが茅乃の顔色は真っ青だ。
絹で出来た朱色で金の刺繍をされた可愛らしい靴で櫓の階段を昇る足も震えている。
「あーあ、あの様子だとどうやら聞かされちまったかな。」
「最近は口が軽い者が多いからな。知らない方が幸せだったろうにな。」
姫様と五王様の会話も訝しげだ。
煌めく玉座の前まで連れて来られた女王の前に祭祀役のお役人さんの一人が恭しく跪き、季節の白い花束を差し出した。
受け取らされた茅乃ははらはらと涙をその花束に落とした。
(やっぱり様子が変!)
傍らの巫女が花束を茅乃から取り上げる。
すると背後の祭祀役が豪華な着物をスルリと脱がした。
「いやああああっ!」
薄緑色の下衣だけにされた茅乃は叫び声を上げて櫓から逃げ出そうとした。
ざわめく庭。
しかし力強い祭祀役二人ががっちりと両腕を抑え込んで逃げることは叶わなかった。
巫女が銀の盆に載せられた柄に繊細な細工をしてある小刀を掲げ持ってきた。
先ほど花束を渡した祭祀役が小刀を勿体ぶりながら取り上げ、女王へ一礼の後に下衣の肩紐と帯に挿し入れた。
ハラリと櫓の木の床に落ちる下衣の薄布。
「きゃあっ!」
何も知らないで祭り見物に来た年若い婢女たちの悲鳴が聞こえた。