第6章 夏至祭
「どうしてあたしが『夏至の女王』じゃないのよ!あたしこそが相応しいのに!」
数日後にせまった『夏至祭』は一年で一番大きなお祭りで、私たち婢女や使用人、下男なども宴への同席が認められていてそれはそれは賑やかな夜となる。
そのお祭りの中心が『夏至の女王』だ。女王は毎年、その年の春に新しく後宮入りした婢女から厳正なる抽選で選ばれる。
私も沙良も数日前にお役人さんが持ってきた『くじ』を引かされた。
「女王はね、金糸銀糸を織り込んだ豪華な衣装を着て髪には本物の翡翠の簪をつけてもらって、宝石を散りばめた玉座に座るのよ!あたし以外に女王は考えられないじゃない!」
沙良は怒りで泣き出さんばかりだ。
取り巻きたちが宥めている。
「何であの「茅乃」が女王なのよ?!そばかすだらけでチンチクリンのくせに!」
今年の女王は沙良でも私でもなく、四王様の何番目かのお妃様のところに居る「茅乃」が当たった。
茅乃はその小さな身体を震わせて隅で黙々と洗濯をしている。
(茅乃ちゃんは確かに小柄だけどチンチクリンとはヒドい……相変わらず沙良は大した自信だなあ。)
私は大騒ぎになっている洗濯場を静かに後にした。
「暑い時にうるっさいねえ!離れ(ここ)まで聞こえるよ、一体何の騒ぎだい?」
姫様は綺麗な乳房がほとんど露わになるほど襟元を開いてバタバタと扇子で扇ぎながら聞いてきた。
私は顛末を話した。
「あぁ、夏至の女王かい?女王たってそんないいもんじゃないよ。ねえ、ネコ?」
ネコさんは切れ長の目をわずかに細めた。
「何年か前、ネコが女王の座を当てたのさ。立派に務めて私も鼻が高かった。」
(ネコさんが?!)
「あの大騒ぎしてるのはネズと同郷の……えぇと何て娘だっけ?」
「沙良です。」
「あぁ、あの『出目金魚』みたいな顔の娘だね。」
(出目金魚!確かに似てるかも!?)
私は吹き出しそうになった。
「どう頑張ったってね、『くじ』は絶対なんだよ、ネズも引いたんだろ?」
「……ハズレでした。」
「だから容姿で選ぶんじゃないんだよ。運なんだよ。」
「昔っから自分が中心じゃないと気が済まない娘で……」
「めんどくさい娘だねえ。」
それから祭りまでの間、沙良はずっと大騒ぎしていた。
麗姫様にも掛け合ったらしいが、流石にこればっかりは叶えられなかった。