第3章 ナン
ナツメのあまりの美味しさに、いや後宮(ここ)に来て初めて優しい言葉を掛けられたからか次から次と溢れ落ちる涙が止まらなくなり………
「うわあああああん!」
遂には子供の様に泣き喚いてしまった。
「ちょっ、待て!大声で泣くな。俺がイジメたみたいだろ。」
若者は両手のカゴをひったくって、
「まず、中に入ろう!」
私の肩を片手で抱えると部屋の中に押し入れた。
「ひっく…ひっく………」
長椅子で嗚咽する私の隣に若者も座る。
懐に手を入れ手巾を取り出した。
「これで拭けよ。」
「うんっ……」
クシャクシャだったけど、清々しい香の薫りがした。
「ありがとう………えぇっと……」
「ナンでいいよ。
燦ねえもそう呼ぶ。」
(ナン……………)
「辞めないでね………君に辞められるとその………」
ナンはもじもじと言い淀んだ。
「えっ!?」
「困るんだ!」
(えぇ――っ!)
初めて顔を合わせた時と同じまっすぐな目で見つめられて何故かドキドキした。
「辞めないよ、な?」
「……う、うん。」
「良かったあ!!」
ナンは立ち上がって叫んだ。
「……兄上と賭けしてんだよ、燦ねえんとこの婢女がひと月もったら俺の勝ちなんだ!」
(えぇっ――――――!?)
「頼むよ、なっ。」
ナンはナツメの包みを無造作に私の手の中に放って離れを出て行った。
「何なの!もう!」
私はナツメの包みをぎゅっと握りしめた。
でも思いっ切り泣いたからか何故か気分はすっきりしていた。