第3章 ナン
大勢の婢女たちで賑やかな洗濯場へやって来た。
「きゃははははは!」
(あの甲高い笑い声は沙良だな。)
沙良は既に婢女たちの中心になって談笑している。
村のお寺でもいつでも沙良が真ん中だった。
「あら、おはよう。」
沙良はまた口を歪めて挨拶してきた。
「今日は『クツワ』を外されたんだあ。
でもまだ服は着させてもらえないのね、まったく初日からあんた何やったのよ!」
取り巻きと一緒に甲高く嘲笑した。
「あたしは、見て!」
クルリと回ってみせた。
昨夜とはまた違う服を着せられている。髪も可愛らしく結われ、とても婢女には見えない。
「あたしの麗姫様はねーえ、とってもお優しいの!お稽古ごともさせてくれるって。今日の午後は舞を教えてもらえるの。
婢女じゃなくて皇女様になったみたいよ!」
ほう………とあたりから溜め息が聞こえた。
「あんた、大丈夫?
でも辞めて帰るワケにはいかないのよねえ〜ビンボウだから。」
そしてまたドッと笑われる。
私は無視して洗濯に集中する。
「あー感じ悪っ、せっかく心配してあげてんのに。それだから運が悪いのよ。
みんな。この娘の不運が伝染るから行きましょ行きましょ!」
――――残された私は黙々と洗濯を終え、離れに戻ると橋の上に今朝の若者が一人でいた。
何か食べているのか口をもごもご動かしている。
「よお。」
私は黙って会釈だけした。
「燦ねえはネコさんと湯浴みに行ったよ。」
脇を通り抜けて部屋へ入ろうとしたら前を立ち塞がれた。
「ナツメの干したのもらったんだ。甘くて美味いぞ、食わねえか?」
紙に載せたナツメを差し出された。
若者は私が両手に大きなカゴを抱えているのに気がつくと、
「……それじゃ食えないか。どれ、食わしてやるよ。」
例の綺麗なユビで摘まれたナツメが私の口に捩じ込まれる。
(………甘い。)
その途端、両目から涙が一粒、二粒………
「おい?一体どうしたよ?」