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燦姫婢女回顧【R18】

第3章 ナン


離れの入口の薄布を手でもてあそびながら立っていたのは、武道場に見えた弓の若者だった。

もう片方の手にさっきまで射ていた弓矢を携えている。


「五月蠅いわね!子供(ガキ)のくせに!」

「ガキじゃないですう〜〜もう元服したもん。」


「元服した男(ひと)がどうして後宮(ここ)に入って来てるんですかねーえ。」


原則、後宮にはその御殿の帝や王以外の大人の男性は立ち入ることは出来ない。


「俺は燦ねえが心配だから来てあげてるんですう〜ほおっておくと酒以外口にしないから!」

「ほんっと生意気ね!
ああネコ、厨房からお茶を取ってきて、二人分ね。」


「ほら、燦ねえ!果物だけでも食べな!」

その若者は節くれているが綺麗なユビで皿の葡萄をつまんだ。

「いーらーなーい―――!」

「じゃあ俺が食わしてやるよ!」

若者は無遠慮に姫様の横たわっている寝台ににじり上がっていった。



(このヒト何者なの?
「燦ねえ」って呼んでるから弟?!そうは見えないな……もっと親密な。)


「食えって!」

「いらないっ!!」


寝台の上でバタバタと二人でじゃれ合っている。

(私、どっか行ってた方がいいのかしら?)

お茶を取りに行ったネコさんはまだ戻ってこない。


「あのっ!」

私は意を決して叫んだ。

「私っ、何かやることありますかっ。」



「あぁ?」

二人は今初めて私に気がついたかの様に寝台から顔を上げた。


若者は機敏な動作で立ち上がるとまっすぐな目で私を見てきた。

「君が昨日から入った婢女さんかあ。
よろしくな!」


「ネズ!洗濯にでも行ってきな。」

姫様は気怠げに部屋の済に置かれた洗濯カゴを顎で示した。

「はいっ!」

早くこの場から去りたくていそいそとカゴを持ち上げた。


「ネズって呼んでるの?」

「そう『ドブネズミ』のネズ!」

「性懲りもなく手厳しいなあ、燦ねえは。」



二人の会話を背に私は洗濯場に向かった。
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